神楽岡工作公司
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 ■ その3
<04/03/29>

「紙の教会」

阪神大震災で焼失した地元教会のために、
ボランティアの手により建てられた「紙の建築」。

径330mm、厚さ15mmの紙パイプを主要な構成要素とし、
水平剛性は紙パイプの柱脚固定および、ブレースで確保し、
屋根面は木材とケーブルでテンションリングのようなものを構成し、
その張力で突き上げられた膜面がそのまま防水層になっている。
なので、外観も中央部は尖っているハズ。
前面の庇は後の工事で追加されたものと思われる(当時の写真にはついてない)。

アメリカで教育を受けた設計者らしく、
必要最小限の建築的操作で、きわめて明快なコンセプトを表現している。
紙パイプを楕円に並べ、入り口側は間隔を広く、祭壇側は間隔を狭くし、
それだけで、建物の求心性を演出している(2)。
実際の外壁面は、楕円に並んだ柱の外側に、
ポリカや亜鉛メッキした下地材などで簡易に構成し、
建物正面のみ、全面開放できるようになっている。


紙の建築の可能性を明示したその裏側で、
このプロジェクトは、
建築家の社会性、それも最もデリケートで基本的な問題をも浮き彫りにした。

一連の震災復興プロジェクトには、多くのボランティアが参加し、
軽量で簡単な素材、構法による「紙の建築」は、
道具をもたない素人でも簡単に短い工期で建設でき、その点は非常に良く機能していた。

その一方で、仕上がりの悪い紙パイプを大量破棄したり、
工期よりも、施工精度を優先した建設側の基本方針は、
必ずしも心に傷をおった現地の人に受け入れられるものではなかった。

紙であるため、防水の品質に留意しないと、
建物全体の耐久性を損なうことになる。
また、紙という弱い材料で、素人作業の質の悪いバラックを建設してしまっては、
中長期的に見て、被災者につらい生活を強いることになる。

仮に、建築の専門家に徹して、完成度のみに留意して建設を進めても、
取り残された地域住民からは、「売名行為」と映りかねない。
しかし果たして、誰からも咎められないように、
匿名性で低品質のバラックをぶちまけることが唯一のボランティアなのか?

倫理観すら超越した地平で、
社会の中で、どう振る舞うべきなのか、どう見られているのか、
「建築家」を名乗る以上、常に客観的で厳しい視線に一人でさらされることになる。

と、こんなにも簡易で明快な建物を前にして、
モラルの深淵にまで引きずり込まれる、そんな奥深いケンチク。


「紙の教会(被災鷹取教会の仮設コミュニティホール)」
建築 坂茂建築設計
構造 松井源吾
施工 ボランティア
所在地 神戸市長田区
用途 コミュニティホール
主体構造 PTS(紙管構造)、一部鉄骨造
竣工 1995年


ケンチク的明快度 ★★★★☆
ケンチク的混沌度 ★★★★★
ケンチク的社会貢献度 ★★★★★+
  


1.外観(前面庇は後付けと思われる)


2.内部紙管の柱列


3.楕円の紙管と外側のサッシ


4.劣化している訳ではないが、傷みが早いようだ


5.既製品の紙管以外は割と荒い

撮影日:
02/01/06 晴れ



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