神楽岡工作公司
それいけケンチクマン!


>> バックナンバー

 ■ その17
<04/12/04>

埼玉県立大学

建築面積約34,000平米、延べ床面積54,000平米という、
数字だけではトンチンカンな規模を誇る看護福祉系の県立大学。
敷地周辺は、ほとんど田んぼで、
駅からまっすぐに伸びる道の先に、
唐突に立ち上がるパキっとした「ファクトリー感」は何ともいえない。

1階はほとんど地下に埋まっていて、
主に目につくのは、幅40m*長さ250m程の細長い2棟の建物。
これらが、1階屋上のデッキを挟んでお互いに開いている。
プラン的には、
埋まっている1階部分が日常的に使う実習室、実験室、図書館で、
細長い建物が、講義室、研究室になっている。
その他、敷地内には体育館棟、本部/講堂棟がある。

キャンパス内で、一見して気づく事は、
多種多様な用途の建物があるにもかかわらず、
それぞれに特殊解を求めるのではなく、
全て同じシステムで解いているということ。

これだけの規模をコントロールするために、
ある程度、全体も部分も自動的に決まっていくような設計手法をとった、
といえなくもないが、
同じスペースに、イスを並べれば講義室で、
本棚を並べれば図書館になり、
パーティションで区切れば研究室にできそうなプラン。

ただ、フレキシブルに設計しているのとは全く違い、
設計意図をことごとく消し、
用途からくる要求を均質に溶かしてしまっている感じ。
また、同じ均質でも、フワフワにしていく透明ケンチクとも違い、
システムとかグリッドはしっかりと存在する。


キャンパス全体が素気ない感じかというと、
そうでもなく、
細長い棟に収まらなかったとして、
大講義室のボリュームが飛び出していたり、
でかい吹き抜けがあったり、
少しずつ、わざとシステムを破綻させる事によって、
キャンパスライフ感は微妙に演出されている。


一つのケンチクを、一人の建築家像に結びつける、
20世紀的な巨匠系建築のあり方ではなく、
建築家はシステムだけをつくり、
あとは、そこに集う人々のための場を与えていくような、
媒体的な建築のあり方。
平たくいえば、社会に対して開いていく設計のあり方というのが、
最近の公共建築には多く見られる。

必ずしも独りよがりな造形は必要ないけど、
具体的なケンチクの存在感や、
空間の抑揚感をも消し去ろうとする「カオナシ」建築には、
やっぱり物足りなさも感じてしまう。



「埼玉県立大学」
建築 山本理顕設計工場
構造 織本匠構造設計事務所、構造計画プラスワン
設備 総合設備計画
施工 大学棟/大林・日本国土・株木・UDK JV、短大棟/清水・大木・松栄JV、本部棟/東急・和光・川口土建JV、図書館棟/三井・三ツ和・松永JV、体育館棟/高元・スミダ・野尻JV
所在地 埼玉県越谷市大字三野宮
用途 大学
主体構造 鉄骨鉄筋コンクリート造、鉄筋コンクリート造、鉄骨造、PC造/既製コンクリート杭
竣工 1999年


県立でなんでこんなに金があるんだ度 ★★★★☆
学生がいない時のキャンパスライフ度 ★☆☆☆☆
飛び出せ!大講義室度 ★★★★★+



1. 主な細長い2棟と、飛び出す大講義室。広大な2棟間のスペースの使われ方には全く必然性を感じず。


2. デッキ部分から、1階の光庭部分をみる。下は図書館の事務か。吹き抜け奥は講堂。


3. 素っ気ないファサードに、各講義室のボリュームが浮き出る。隙間は全部吹き抜け。


4. 細長い棟全てにかかっている大屋根。システムを規定している。


5. 細長い棟の後ろ半分はPCのラーメン造。前半分に講義室が浮かんでいる。




撮影日:
02/02/27 晴れ


 ■ バックナンバー

その19 横浜港大桟橋国際客船ターミナル 05/07/05
その18-2 三山木の蔵(後編) 05/03/04
その18-1 三山木の蔵(前編) 05/02/15
その17 埼玉県立大学 04/12/04
その16 古河総合公園飲食施設 04/11/08
その15 江山閣 04/09/23
その14 石の美術館 04/08/11
その13 馬頭町広重美術館 04/07/11
その12 秋野不矩美術館 04/06/26
その11 ねむの木美術館 04/06/15
その10 大田区休養村とうぶ 04/06/08
その9 マルチメディア工房 04/05/25
その8 飯田市小笠原資料館 04/05/16
その7 エイチエイチスタイルドットコム 04/05/08
その6 近つ飛鳥博物館と狭山池博物館 04/04/27
その5 まげわっぱ(今井病院附属託児所) 04/04/13
その4 大館樹海ドーム 04/04/05
その3 紙の教会 04/03/28
その2 土門拳記念館 04/03/21
その1 せんだいメディアテーク(工事中) 04/03/14


What's NEW/JOURNAL/WORKs/PROJECTs/REPORTs/FELLOWs/About Us
■