埼玉県立大学
建築面積約34,000平米、延べ床面積54,000平米という、
数字だけではトンチンカンな規模を誇る看護福祉系の県立大学。
敷地周辺は、ほとんど田んぼで、
駅からまっすぐに伸びる道の先に、
唐突に立ち上がるパキっとした「ファクトリー感」は何ともいえない。
1階はほとんど地下に埋まっていて、
主に目につくのは、幅40m*長さ250m程の細長い2棟の建物。
これらが、1階屋上のデッキを挟んでお互いに開いている。
プラン的には、
埋まっている1階部分が日常的に使う実習室、実験室、図書館で、
細長い建物が、講義室、研究室になっている。
その他、敷地内には体育館棟、本部/講堂棟がある。
キャンパス内で、一見して気づく事は、
多種多様な用途の建物があるにもかかわらず、
それぞれに特殊解を求めるのではなく、
全て同じシステムで解いているということ。
これだけの規模をコントロールするために、
ある程度、全体も部分も自動的に決まっていくような設計手法をとった、
といえなくもないが、
同じスペースに、イスを並べれば講義室で、
本棚を並べれば図書館になり、
パーティションで区切れば研究室にできそうなプラン。
ただ、フレキシブルに設計しているのとは全く違い、
設計意図をことごとく消し、
用途からくる要求を均質に溶かしてしまっている感じ。
また、同じ均質でも、フワフワにしていく透明ケンチクとも違い、
システムとかグリッドはしっかりと存在する。
キャンパス全体が素気ない感じかというと、
そうでもなく、
細長い棟に収まらなかったとして、
大講義室のボリュームが飛び出していたり、
でかい吹き抜けがあったり、
少しずつ、わざとシステムを破綻させる事によって、
キャンパスライフ感は微妙に演出されている。
一つのケンチクを、一人の建築家像に結びつける、
20世紀的な巨匠系建築のあり方ではなく、
建築家はシステムだけをつくり、
あとは、そこに集う人々のための場を与えていくような、
媒体的な建築のあり方。
平たくいえば、社会に対して開いていく設計のあり方というのが、
最近の公共建築には多く見られる。
必ずしも独りよがりな造形は必要ないけど、
具体的なケンチクの存在感や、
空間の抑揚感をも消し去ろうとする「カオナシ」建築には、
やっぱり物足りなさも感じてしまう。
「埼玉県立大学」■ |
建築 |
: |
山本理顕設計工場 ■ |
構造 |
: |
織本匠構造設計事務所、構造計画プラスワン |
設備 |
: |
総合設備計画 |
施工 |
: |
大学棟/大林・日本国土・株木・UDK JV、短大棟/清水・大木・松栄JV、本部棟/東急・和光・川口土建JV、図書館棟/三井・三ツ和・松永JV、体育館棟/高元・スミダ・野尻JV
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所在地 |
: |
埼玉県越谷市大字三野宮 |
用途 |
: |
大学 |
主体構造 |
: |
鉄骨鉄筋コンクリート造、鉄筋コンクリート造、鉄骨造、PC造/既製コンクリート杭 |
竣工 |
: |
1999年 |
県立でなんでこんなに金があるんだ度 |
: |
★★★★☆ |
学生がいない時のキャンパスライフ度 |
: |
★☆☆☆☆ |
飛び出せ!大講義室度 |
: |
★★★★★+ |
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1. 主な細長い2棟と、飛び出す大講義室。広大な2棟間のスペースの使われ方には全く必然性を感じず。
2. デッキ部分から、1階の光庭部分をみる。下は図書館の事務か。吹き抜け奥は講堂。
3. 素っ気ないファサードに、各講義室のボリュームが浮き出る。隙間は全部吹き抜け。
4. 細長い棟全てにかかっている大屋根。システムを規定している。
5. 細長い棟の後ろ半分はPCのラーメン造。前半分に講義室が浮かんでいる。
撮影日: 02/02/27 晴れ |