『荒壁を廻る家』は60年代に建設されたマンションの一住戸の全面的な「リフォーム」である。
茶室を設けること、かつ「廃墟のような雰囲気」であること、そして膨大な書籍の収納、という設計要件に対し、中央部に茶室を配した回遊型のプランを提案した。決して広くはない面積の住戸を細切れに仕切ることを避け、空間的な変化と連続性をもたせること、住居の中心となる象徴的な場をつくること、さらに書棚のための壁面を最大限に確保することが、その狙いである。
はじめに既存の内装を全て取り除いた際、予想外に荒々しい迫力をもった躯体コンクリートが現れた。基本的にその質感を生かした内装仕上げとするとともに、茶室には藁すさとひび割れの表情豊かな荒壁仕上げを採用して、それぞれの素材感が際立つ構成とした。住居の中心に土壁の一室を設けることで、自然な調湿効果も期待される。
茶室は「煎茶」を目的としたものであるため、「抹茶」の暗く閉じた密室ではなく、南の開口部に面した明るく開放的なものとして、リビングの延長としても使用できるように配慮している。床には吉野産の無垢の杉板を敷きつめ、松煙、茶粉、柿渋を用いた「古色仕上げ」としている。白木の床の清々しさもよいが、色濃く着色することで、躯体や土壁の表情が映えるとともに、ぐっと落ち着いた雰囲気が生まれる。床の間の壁はベンガラ入り中国土のなでもの仕上げ、床板と落とし掛けは栃の無垢材を拭き漆で仕上げた。
| 2004.05.03 |