「喜多見のビル」は狭小敷地に建つ店舗兼事務所ビルである。
依頼主に敷地を案内された時は目を疑った。僅か14平米(約4坪)、車一台の駐車がやっとの土地に3階建ビルの要望である。この「小さな敷地」が最大のテーマとなった。
現行法規の中でとり得る最大の容積を確保しても、立ち上がる空間は狭小となり、構造形式や素材によっては圧迫された空間となる。そこで、広さを確保する目的で建築要素を外周の「殻」に集約し、居住者にとってやさしい、開放的で豊かな空間を創ることを目指した。また、店舗を兼ねていることから、街の中で存在感を発揮できる「殻」のありかたも検討した。
具体的には、塔状となる建物に十分な剛性を確保するには、外周すべてをチューブ状の構造体として使う必要があったため、開口率を最大化する意味で主要構造をトラス状とした。また、工期短縮と現場施工を極力少なくする目的で、一構面の一層分を1枚のパネルとして、プレカット工場で先に組み立てて、現場では四構面*三層分の12枚のパネルを引きボルトのみの接合とした。このV字のトラスの間に適宜ガラス板を架け渡して収納棚とした。
建物の四面のうち、二面は駅前広場に対して開放するため、ナシ地処理した波型ガラスで全面を構成した。残りの二面は隣地側となり視界は期待できないので、居住者を静かに受け止める土壁として閉じた。
こうして、木、ガラス、土という限定した素材で構成することにより、中は木洩れ陽が落ちる森の中のような空間となり、外からは波型ガラス越しにトラスや内部がうっすら把握できる。ここで一日を過ごす居住者は、光の状態によって変化する建物と一体となり街に溶け込みその境界があいまいになっていく感覚を覚える。そして、少しづつ街と繋がりながら、狭小建築ならではの空間の広がりを獲得してゆく。
| 2005.02.15 |