0. | 「古色」とは | 3. | その他の古色材料各論 | |
1. | 神楽岡工作公司で用いた古色材料各論 | 4. | 古色に関する現状と展望(追加) | |
2. | 神楽岡工作公司で用いた古色仕上げ | 5. | 付録、参考文献 | |
3. その他の古色材料各論 | |
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ごふん(胡粉、chalk, English White, Whiting) |
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とのこ(砥粉、polishing powder) |
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おうど(黄土、ocher) |
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アンバー(Umber) |
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しゅ(朱、vermilion) |
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にかわ(膠、glue) |
■ ごふん(胡粉、chalk, English White, Whiting)
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・概要: |
カキ、蛤、ホタテ貝などの貝殻を粉砕したもの。水に溶いて白色顔料あるいは体質顔料として使用される(※1)。古く奈良時代には塩基性炭酸鉛(※2)のことを指し、鎌倉時代まで用いられた。室町時代以後、貝殻を焼いて製したものを胡粉と呼ぶようになった。
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・成分: |
炭酸カルシウムCaCO3。
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・性質: |
炭酸カルシウムは酸と反応し二酸化炭素を発生して溶けるため、耐酸性は弱い(CaCO3+2HCl=CeCl2+CO2+H2O)。胡粉は粒子の形がまちまちであるため吸油量が多く、パテ(※3)などを作ると粘性の強いものが得られる。
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・製法: |
貝殻の表面に付いた汚物をとるため、数ヶ月〜数年間屋外で日光及び風雨にさらして風化させる。これを粉砕しパウダー状にし、さらに水と練り石臼で粘土状になるまで挽く。これを水に溶き沈殿させ上澄みを流した後、沈殿物を板に薄くのばして、再び天日で乾燥させる。
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■ 註 |
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※1: |
体質顔料:天然の顔料の中で、白色かつ着色力の少ない透明性の顔料のこと。着色力が少ないため、他の顔料・塗料の増量剤、また着色性・強度などを改善するための混合剤として用いる。
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※2: |
鉛白(えんぱく)。鉛の塩類の溶液に炭酸ナトリウムを加えて熱すると生成する白色の板状結晶。白粉(おしろい)や白色顔料に用いられてきたが、有毒なので今日ではあまり利用されない。また変色することがあり、絵巻などの古典作品の顔の色が黒く変わっているのはこれによる。 |
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※3: |
白亜・胡粉・亜鉛華などの体質顔料を乾性油で練った充填材。 |
■ とのこ(砥粉、polishing powder)
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・概要: |
酸化鉄を含む粘土を水簸して製したもの。あるいは、砥石を山から切り出す時に出る石の粉末。淡黄褐色または白色の顔料、体質顔料。
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■ おうど(黄土、ocher)
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・概要: |
天然に産する土を精製して得られる黄色顔料。原料の土は鉄鉱石や長石(※1)が自然風化して出来たもので、地球上に広く分布する。産地により夾雑物の種類と量が異なり、色もまちまちで、淡黄から黄褐色まである(※2)。製法が容易であり、きわめて安価。古代から使用されている顔料である。
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・成分: |
発色成分は酸化鉄Fe2O3であり、その他に珪酸SiO2、アルミナAl2O3を多く含む。
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・性質: |
加熱すると水分が失われ、赤味を帯びる。粒子が細かく、嵩高い。耐候性があり、化学的にも安定。着色力、隠蔽力ともに大きいが、熱、酸に弱い。
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・製法: |
天然の土を採掘し、これを粉砕、水洗、水簸し(※3)、低温度で乾燥して得られる。温度が高すぎると赤味がかる。
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■ 註 |
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※1: |
ナトリウム・カルシウム・カリウムなどのアルミノ珪酸塩鉱物。造岩鉱物としてたいていの岩石に含まれる。ガラス光沢があり、ほぼ白色。火成岩の主要成分の一。天然水には抵抗力が弱く、容易に色沢を変え、アルカリ分と珪酸の一部を失い、水分を吸収して陶土になるから陶磁器製造の原料となる。また、肥料・火薬・ガラス・マッチなどの製造にも用いる。 |
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※2: |
顔料名としては、鉄分の少ない比較的明るい淡黄色のものをオーカーocher、鉄分が多く暗い濃黄色のものをシエンナsiennaと呼んで区別するが、両者は基本的に同じものである。 |
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※3: |
水簸(すいひ):土粒子の大きさによって水中での沈降速度が異なるのを利用して、大きさの違う土粒子群に分ける操作。陶土を細粉と粗粉に分けたり、砂金を採集する場合などに用いる。 |
■ アンバー(Umber)
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・概要: |
酸化鉄Fe2O3および酸化マンガンMnO2、Mn3O4を着色成分とする茶色の顔料。主にヨーロッパ各地に産する粘土から精製する。黄土との相違点はマンガンを多く含む点のみである。
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・性質: |
一般に隠蔽力、着色力ともに大。酸、アルカリにも強い。酸化マンガン多量に含むため、油と練って塗料とする場合、塗膜の乾燥力が大きい。
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・製法: |
原土を単に粉砕、水洗、水簸、乾燥したものを「生のアンバーRaw Umber」と称し、青味のある褐色である(青口アンバー)。これを焼成したものは「焼きアンバーBurnt Umber」と呼ばれ、赤味のある褐色である(赤口アンバー)。産地により成分割合は、種々なものがある。
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■ しゅ(朱、vermilion)
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・概要: |
銀朱ともいわれる赤色顔料。特に良質なものは、中国の産地名にちなみ辰砂(※1)と呼ばれる。古くから建築物の高級塗装、漆器、絵画用などに広く使われてきた。古代には古墳の棺の内部に塗り、防腐剤の機能も果たしていた。人体に有毒で、また高価であるため、近年では他の顔料に置き換えられ、用途が狭くなっている。現在では漆用の顔料として使用される量が最も多い。朱墨も朱による色である。
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・成分:
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硫化水銀HgSからなり、比重が非常に大きく(8.2)、有毒。色合いは製法により異なり、橙色から濃赤色まで様々である(※2)。隠蔽力は大きい。基本的に日光にさらしても褐色しないが、製品により時として日光により黒変することがある(※3)。不純物として硫黄を含む場合があるので、鉛や銅の顔料とは混合しない方がよい。
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・製法: |
昔は天然に産する辰砂をそのまま、あるいは粉砕などの加工をして用いたが、後世になると水銀と硫黄を反応させ製造することが考案され、種々の色調の朱が作られるようになった。現代では主に、水銀と五硫化カリウムを加熱混合する方法で製造される。
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■ 註 |
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※1: |
辰砂(しんしゃ):天然の硫化水銀鉱。中国の辰州で産する砂の意。多くは塊状または土状で赤褐色。低温熱水鉱床中に産する。水銀の原料また朱色の顔料として古くから用いられてきた。有毒。別称、朱砂、丹砂、丹朱。 |
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※2: |
色合いの違いは顔料の組成よりも、結晶の物理的構造の違いに起因する。HgSには立方晶黒色のものと、六方晶赤色のものがあり、それぞれ異なった色合いとなる。 |
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※3: |
硫化水銀の結晶構造が変化するためと考えられる。 |
■ にかわ(膠、glue)
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・概要: |
動物(主に牛、鹿、豚など)の皮、骨、腱、内臓膜を主要原料とし、これらを水とともに熱して得られた抽出液を濃縮して乾燥したもの。日本や中国で古来より顔料の展色剤として使用された。
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・成分:
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ゼラチンを主成分とし、透明または半透明で弾性に富み、主として物を接着するのに用いる。ニベ(※1)の鰾(うきぶくろ)から製する鰾膠(にべにかわ)(※2)は特に接着力が強い。魚の皮、骨を原料としたものは魚膠(ぎよこう)と呼ばれ液状で用いられるが、一般に品質は獣膠より劣るとされる。原料として他に、製革工場で皮の内側の結合組織を除去する作業で得られたものや皮の裁断くずがある。
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・用途: |
膠の起源は3000年前のエジプトにおける家具製造にさかのぼるとされる。主として木工などにおける接着剤として、日本でも古くから広く用いられた。また中国や日本では顔料を溶かし接着する展色剤として、絵具や墨の重要な材料であった(※3)。
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■ 註 |
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※1: |
ニベ科の海産の硬骨魚。体長約90cmで背びれに切れ込みがあり、背は灰青色、腹部は淡色。浮き袋を振動させて鳴く。本州近海から東シナ海・南シナ海にかけて分布。 |
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※2: |
単に「にべ」ともいう。粘着力の強いところから転じて、他人に親密感を与えること=愛想・愛嬌をも意味する。「にべもない」とは、愛嬌もない、思いやりもない、とりつきようがない、そっけないことの表現である。 |
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※3: |
平安時代、牛革の塗料として、掃墨(はきずみ)2升8合に膠5両14銖、酒1升4合とを混合したものが使用されている(延喜式)。 |
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※4: |
三千本膠(さんぜんぼんにかわ):牛一頭から三千本作ることができたため、こう呼ばれる。一本の長さ約30cm、15g弱。 |